以前、当サイトで連載していた『ごまめの小唄』で、タイ古式マッサージについて書いた。重複する部分もあるかもしれない。
　さて、筆者は肩凝りや腰痛に悩まされ、これまで鍼、灸、各種マッサージと、さまざまな療法を試してきた。長年にわたる遍歴を経て、ようやくたどり着いたのがタイ古式マッサージである。
　タイ古式マッサージには、ストレッチ主体のコースと、オイルマッサージコースの２種がある（ただし、筆者は本場タイでの体験はないため、あくまで東京での状況であることを付記しておく）。
　筆者が通っているのは都内某所（ＪＲ総武線沿線）であるが、そこはストレッチのみで、オイルはない。
　店内に入ると、まず靴下を脱いで足を洗ってもらう。指定された敷布団の場所に行き、服を脱いで、所定のパジャマに着替える。隣りとは、カーテンで仕切られているだけである。
　やおら、マッサージ師のタイ女性が登場し、合掌してタイ式のあいさつをする。
「サイショは、ウツブセにネてください」
　筆者は嬉々としてうつ伏せになる。
　もう、あとはベキベキ、メリメリの過激な世界。筆者は気息奄々、「はひ、ほへ、はへ」と、あえぐのみ。もう、ほとんどプロレスの固め技、痛め技をきめられているようなあんばいである。時には、「痛い、痛い」と悲鳴をあげて許しを請うのだが、タイ女性は「おキャクさん、カラダ、カタいね」とクスクス笑うのみで、いっさい手をゆるめない。
　こうして、筆者はイタキモ（痛くて気持ちいい）ワールドを堪能し、深く満足して家路に着くのである。
　その後、タイ古式マッサージには、睾丸マッサージという独特の技があることを知った。もちろん、ワイセツサービスではなく、れっきとした健康法（回春も含む）である。
　筆者は興味津々、ぜひ一度、試したいと思ったのだが、通っている所ではやっていない。しかし、これが簡単にあきらめられようか。鋭意調査した。
　都内と近郊のタイ古式マッサージ店をインターネットなどで調べたところ、都内某所（ＪＲ山手線沿線）に○○という店を発見した。
　○○の宣伝文句には、こうあった。

○○は睾丸マッサージのホームラン王です

　もう、うれしくなった。
　筆者は、こういうユーモア（というのかな？）は大好きである。さっそく、都内某所に向かった。
　受付でコースの案内を見せてもらった。それによると、
ストレッチコース
オイルマッサージコース
　の2種があり、オイルマッサージコースにオプションとして、睾丸マッサージと明記されていた。別途3千円である。
　筆者は勢い込んで言った。
「オイルマッサージコース。そ、それに、オ、オプション！」
　声が上ずっているのが自分でもわかった。ちょっと恥ずかしい。
　個室に通された。中央に、マットが敷かれていた。
　現われたマッサージ師のタイ女性はやや年齢が高い。いかにも老練という雰囲気である。日本語も堪能だった。
「全部脱いで、シャワーに行ってください」
　女性の指示で、筆者は素っ裸になった。また、このとき、個室の意味もわかった。全裸になるため、隣りとの境界を設けなければならないのだ。
　筆者はバスタオルを腰に巻き、案内されてシャワー室に行った。
　シャワーを浴びて個室に戻ると、全裸でマットの上に横たわり、いよいよオイルマッサージである。
　まず、うつ伏せ。
　女性は足指から背中まで、体の各部を手のひらと指先でマッサージし、香油をすり込んでいく。オイルなのだが、べとべとする粘着感はない。というより、体内に香油が吸収されていくような気がする。
　次に、あお向け。
　足、腹部、胸と香油がすり込まれていく。
　ほとんど桃源郷、うっとりとして、眠気すらもよおす。
　いよいよ、オプションである。
　期待と同時に、やや恐怖もあった。
　というのは、彼女たちは職業柄、握力、とくに指先の力はものすごい。うっかり力の加減を間違って、指先で睾丸をぎゅっと押したらどうなるだろうか。筆者は「ギャーッ」と絶叫して悶絶するのは確実であろう。ふとそれを想像すると、冷や汗が流れる。
　しかし、それは杞憂に終わった。
　睾丸そのものにはけっして指先は触れない。陰嚢（要するに袋）を引っ張り、丹念に延ばしながら、そこに香油をすり込み、マッサージするのだ。
　かなりの高等技術である。
　また、オイルマッサージの延長としての技術であることも、これで理解できた。
　さて、読者がもっとも気になるところにまだ言及していない。
　やはり、書かないままにはいくまい。正直に述べよう。
　これだけの刺激を受けるのである。もちろん、兆候は起きる。しかも、素っ裸の状態である。
　筆者も、雄雄しく直立したのであった。
　ただし、これ以降の詳細は、黙秘権を行使させていただく。

　　　　　（中略）

　すべてが終わると、筆者はふたたびシャワーを浴び、衣服を着て、深く満足して家路に着いたのであった。