私の父は30歳くらいの時に信仰を持ちました。聖霊の光に照らされて神様の前に平服したのです。
　農家に肥料を売る商売でしたが、お客にお茶を要求されると、「あんた、井戸に行って自分で水をくんで飲んじょくれ」と方言まるだしの、お客をお客とも思わぬ商売ぶり。それでも、なかなかに繁昌したそうです。商売の才覚もあったのでしょう。
　ある時は、土地のやくざに売掛金の催促を内容証明で送りました。支払いがなければ執達吏をさしむけるという例の手です。件の男、怒ったの怒らないのって、いきりたってやって来ましたが、何か父に言われているうちに、首を振り振りおとなしく帰って行ったといいます。
　教会では日曜学校の校長先生をしていましたが、生徒が騒ぐと頭を小突いて回ります。こんな日曜学校の先生は見たことがないと宣教師夫人が目を丸くしたそうです。それでいて生徒には慕われた。
　こういう人格はどうして生まれたのでしょう。
　私は、父の生来の性質かと思っていました。しかし、後に父をよく知る人に聞きました。若い時は、ずいぶんと愚痴も言ったもので、とても暗い性質だったそうです。
「ヤソになってからすっかり変わったネエ、あんたの親父は」と、その人は言いました。
　そういう人生もあるということです。