戦前から戦後にかけて及川裸観さんという人が私の笑いの先輩です。この人が近づくと百メートル先からでも分かりました。彼はいつでも「ワッハッハ」と大きな声で笑って来るからです。
　彼が言うには、顔は冬の寒い時でも「裸」でいる。全身を顔と思えば全身裸でいても寒い筈はない、と。なんとも珍奇な哲学ですが、この人はこれを実際に実行したのです。寒い寒い冬の北海道でもパンツ一つで裸同然、歩きとおしました。
　こういう変わった私的哲学でも、それを熱心に実行すれば、人は笑って笑って厳寒の北海道を歩けるほどの人になるのです。こうして彼は一生を笑って生き抜きました。死ぬ時も、死を笑い飛ばして死んで行ったことでしょう。
　同じように、私たちもそれこそ死の関門をも「ワッハッハ」と笑いとばして通り抜けるに違いないと思うのです。死に打ち勝つ信仰の霊をイエス様から賜っているならば、何も恐れるものはありません。信仰の反対語は恐怖です。病気の恐怖、貧乏の恐怖、テロの恐怖、どんな恐怖をも「ワッハッハ」と笑って乗り越えましょう。笑いは信仰を助けます。
　さて、先日、ある朝のテレビ番組で「大いに笑いましょう」と私の十八番を横取りしたような放送がありました。「笑いの基礎練習」と称して顔の筋肉の体操を教えていました。結構なことなのですが、笑い顔と同時に怒った顔を作ってみましょうとか、顔の筋肉の訓練にひょっとこのような口をさせたりとか、妙な目くばせをさせたりとか、これは良くないと思いました。
　顔の表情筋肉を大いに練習させようという発想は良いことのようですが、怒った顔やおどけた顔や泣きべその表情はそのまま感情脳のほうに悪い印象を印刻させるのです。楽しい愉快な、活き活きとした感情を植えつけ、倍加させる、それが私の「笑いましょう」運動です。だから、私の意図とは全く別物だと考えたほうがいいでしょう。
　最近は「笑いましょう」運動も、各所で増えてきて大いに感謝であるが、こうした問題のある指導も行なわれているようです。