以前、ある本を見ていたら、世界名文句集というのがありました。その中で私の心をひいた言葉を２つ。

「一人の敵をも作らない人は、一人の友をも持たない」テニスン
「善い生き方をすればするほど、敵は多くなる」トルストイ

　一応もっともな言葉であるし、思わせ振りな言葉でもあります。
　テニスンと言い、トルストイと言い、近世一流の文人です。
　滅多なことには批評しにくいのですが、これらは果たして真実の言葉でしょうか。

　実は私はこの２つの言葉を私に当てはめてみたのです。そして私は狼狽しました。どうも困ったのです。
　正直に、言いましょう。私には目下のところ、敵はありません。結構、だれとも平和なのです。しかも、私にはちゃんと友がいるのです。そうすると、以上の２つの定式が私にはあてはまりません。私に敵がいないのなら、友もいないはず、という事になります。
　しかし、冗談ではありません。私には友はいる。少数であっても親しい友がいます。
　神学的にサタンを数え上げれば、それこそ相応に敵はいますが、一応この世において、私に敵はないのです。私が意識し、また見る限り私に敵はない。
　そこで、前述の言葉を問いつめれば「今、あなたが友と思っているのは、本当の友ではない。あなたが自分に敵がいないと言っているかぎり、それはあなたには真実の友はいないということだ」と、いうことになるのでしょうか。私にとって、この言葉は実に理不尽なものです。