私は、牧師として信徒の方の死に巡りあうことが度々あります。一番古い経験は22、23歳の頃でした。その方は未亡人で、母の友人でした。
　家庭訪問のつもりで、お宅を訪問すると、そのお宅の家の西側が空き地でしたが、そこにその女性が家の壁に向かって、しゃがみこんでいました。
　声をかけても返事がない。体に耳をあてると呼吸音がない。「大変だ、死んでおられる」と私は驚いて、しばらくの間、祈っていました。
「あっ、こうしてはおれない。うかつだった」
　私は飛び上がるようにして、隣家の方に声をかけました。
「隣の奥さんが死んでいる。息子さんが会社に勤めに出ているはずだ、その方にも知らせねばならない。医師や警察へも知らせなくてはならん」
　そういうことに私はしばらく、と言っても僅かの時間でしょうが気づかずに放っていたわけで、やっと近所の方々は大騒ぎになったのでした。
　その夜のお通夜に参席して、私は思わず亡くなったその方の額に手をあてて祈りました。
　そこで、びっくりしました。
　家の壁に向かってしゃがみこんでいた彼女の体に手をあてて祈っていた時、私の手から何かジンジンするような命の流れが、体に流れ込んでゆくのを感じていたのです。
　それが、今、夜になって、お通夜の席に寝かされている遺体には、ジンジンと流れていた電気のような流れが全然止まっていました。これはどうしたことか。
「あっ」と気づきました。
　あの時にはまだ、彼女の体に私の祈りの力を受け入れるイノチがあったのです。それが今は、途絶している。私は人間の肉体にあるイノチの力の流れに気づいてびっくりしました。
　こうした神秘な世界について、私の初めての発見でもあったのです。こんなことを教えられたことはまだ一度もありませんでした。ただただ、不思議な体験だったと言えるでしょう。
　その後、私はいろいろな本を読んで、こうした死後の世界の神秘を学ぶようになります。しかし、その頃は、何の予備知識もないものですから、ただマゴマゴするだけで、面食らっていました。
　あの家の壁にもたれて倒れ込んでいた女性の体にドンドン命の流れが流れ込んでいたあの感覚を私は今でも忘れることはできません。


　　　　　　　　　[この項つづく]