いれものがない両手でうける　　　放哉

　私は、旅行で小豆島の沖をとおる時、必ずこの句を思いだして涙を感じます。私は、放哉と同じように一燈園にとび込んで、しばらく紺木綿の筒袖姿になった事があるので、ひとしお感慨が深いのです。「いれものがない……」そういう人生がよい。そういう信仰がよい。総務部長、そういう入れ物になにがしの月給が入ります。キリスト教、そういう入れ物に、神学、信条、その他いろいろの思想がつまっています。
　私は、信仰の世界で一個の無政府主義者です。無国家主義者です。いれものがない……ということです。
　私の信仰は、主観的にはキリスト教を一寸たりともはみだしていると思っていませんが、キリスト教界はこれを認めないでしょう。私もまたそれを認めてもらおうとは思いません。私に共鳴し、私と信仰を共にする人は、決して多くは無かろうと思います。しかし、一個半個の人物が私のあとを継いでくだされば、私は幸甚なのです。その幸福を、今あらためて、主に祈りたいと思います。