福岡の刑務所にいたとき、私は独房にいたのですが、鉄の扉の下の方に小さな穴があり、ある日、そこの蓋があいて、「ヨシト、ヨシト………」と声がしました。
　穴が小さいから顔が見えません。
「どなたですか」と聞くと、「おれだ。第三工場にいた村上だ」といいます。看守も遠慮していた雑役の村上氏です。刑務所では旧軍隊の内務班の班長に似て雑役が囚人でありながら幅をきかせていました。
「おれ、こんどここの雑役になった。いま担当(看守)がいて何も持って来られんけどな。ヨシト、元気をだせよ。さあ、手をだせ、おれの手を握れ」
　そう言って小さな穴から手を差し出して私の手を捜すのです。なぜこの村上氏が私にあんなに優しくしてくれたのか今でもよく分からないのですが、多分私が彼の子供のように思えたのでしょう。ともあれ私は嬉しくて泣きじゃくりました。村上氏の手の温かみが冷たい獄中の私に喜びを与えたのです。
　この四月、Ｋ姉が危篤のとき、ベッドに来た看護婦さんがよくＫ姉の手を堅く握っているのに気がつきました。不安になりがちな患者の看護のとき、その手を握ってあげるようにとの指導があるのだろうと、そのとき思ったものです。
　そんなある日、ある新聞に大阪の淀川キリスト病院の「明るく精いっぱい生きるホスピス」の記事が出ていました。その記事で私の目を奪ったのは、看護婦さんが患者の手を握っている光景でした。そして特に皺だらけの衰えた手と若い手の握りあっているアップの写真から、私は目を離す事ができませんでした。
　手を握ってくれる！　なんと心強い安心できる事であろうか。私の手を握ってくれる人がいる。何とすばらしい体験であろうか。
　新約聖書を開くとイエス様はしばしば病める者の手を取っておこしています。あのヤイロの娘、盲人、足のなえた人等、イエス様の手に握られたとき、どんなに感動したことでしょう。また元気づけられたことでしょう。
　今、あなたのそばにイエス様が立っておられます。そして両方の手をのべ、あなたの手をしっかり握ってくださるのです。「心配することはない。お前を愛しているよ」と語りかけてくださるのです。
　それがあなたのクリスマスです。