かつてダイアナ元妃の事故死は世界の同情を浴びました。彼女の皇室や、古いしきたりにたいする反抗心みたいなものを容認する人は多かったのでしょう。しかし、またその反対の、昔かたぎの人も多かったはずです。それがひとたびああいう事故死によって命を絶ったとなると急に同情が集まるのです。
　あたかも戦時中の模範哲学的学徒たちが戦争に狩り出されて戦死したのを思い出します。その若者たちの生涯が美化されて、残された者の涙をさそう。それのみか、青年たちの美化された死のゆえに当時の日本の戦争すら美化されて語られる。
　人間は、特に日本人は、死の美学に弱いようです。戦時中の映画などで、人生問題に悩むような優秀青年が、先輩や従兄の戦死の知らせに、キリッとまなざしを決めて、「俺も死んでくる」と志願兵にでもなって行く。そんな場面がよくありました。
　ともあれ、今日、ダイアナ元妃をも含め、多くの若き命を散らせた人たちの「晩年」を、むやみに美化しないように望みます。亡くなられた人も、そんなことは欲してはいないでしょう。そして、彼らのような存在に真の救いの手を述べられなかった私たちの無力をこそ懺悔したいと願うのです。