『神さま、それをお望みですか』（文春文庫）という曽野綾子さんの本があります。同女史が関わる某民間援助組織での25年間の体験を書いたものす。
　知り合いがそれを読んで「いろいろ考えさせられた」と言って、その本の中の２例を紹介してくれました。
　　　　　　　　　　＊
　曽野さんは九州と中国地方に短い旅をします。二人の女性に会うためです。 　一人は、九州に住む女性占い師。ある時期から、自分の所へ相談に来る人達から受けた寄付をまとめて曽野さんの所へ送ってくれるようになったのです。
　彼女は相談に来た相手に「あなたは、何か人のために尽くしたことがありますか？」と聞くのだそうです。占ってもらいにくるくらいだから、とても他人のことなど構っていられる状態ではない。
　すると彼女は言うのです。
　「そういう気持ちだから、運が向いてこないのよ。少しは苦しんでいる人のことも考えてあげなさい」と。
　送られてくる金額は、1000円の人も１万円の人もあり、一覧表にしてまとめて送って来る。彼女自身は仏教徒だが、その心は聖書の中にも、随所に出て来ると言います。
　もう一人、こちらは山口県の方からも不思議な寄付が送られて来ます。県下のある町の、まだ若いパチンコ店の女性経営者らしい。数年前から時々、「○○パチンコ店一同」という名義で数十万円ずつが送られてくるのです。曽野さんはあまりパチンコをする人ではないし、山口県ではそれこそ心当たりもない。
　この人もまた、なんと温かい感動にみちた女性だったことか。ベトナムのボートピープルのことがニュースになったとき、どこへ寄付したらいいのかと、地元の放送局に電話して、曽野さんの関わる援助組織を知ったのだそうです。
　どういうお金なのか、と尋ねると、意外な事実が分かります。
　主に、お客さんが落として行った玉を集めたものだというのです。パチンコの客というのは、ずいぶん鷹揚に玉をなくして平気なものみたいですね。丸い以上転がり落ちるのは仕方がない運命なのでしょうが、何だかユーモラス宿命論でもあります。
　こうした縁を引き寄せるのも、またその人の魅力なのでしょう。