やっと87分署シリーズ第５作目。

（ネタバレありますので、本作を読む予定の人は読まないように）

　今回、新たに登場する刑事はコットン・ホース。長身で、がっちりとした体格。青い目に尖った顎。髪の毛は赤毛。人の目を惹くのは、左のこめかみあたりに一塊だけ白い毛が生えていることである。犯人に切られた後、傷が癒えると、どういうわけか白い毛が生えてきた、とホースは今後のシリーズ中に会う人ごとに説明することになる。
　ホースは30分署から異動してきたのだが、87分署のような荒っぽい事件には慣れていなかった。
　今回の事件は、酒店でアニイ・ブーンという若い女性が銃弾を４発撃ち込まれて死亡したというもの。女性はここの店員で、かなりの美女であった。
　酒店の店主、アニイの別れた夫らが疑われるが、誰もがアリバイをもっていた。
　もうひとつ、サイドストーリーとしての事件が起きる。
　４作目までに強烈なキャラクターを発揮してきたロジャー・ハヴィランドが殺されてしまうのである。それも、強盗事件の巻き添えを食って、打ち殺されてしまうのだ。
　食料品店の前で倒れている若者に声をかけたところ、その若者は突然に起き上がって、ハヴィランドにぶつかってくる。ハヴィランドは押し倒されて店のガラス板を割って、倒されてしまう。そのとき、ガラスの破片が頸動脈に突き刺さり、喉にもガラス片が刺さって、そのまま息絶えてしまったのだ。
　若者は食料品店に強盗に入って店主を殴って金を奪おうとしているところを、店主に撃たれていた。若者はそのまま逃走してしまう。
　スティーヴ・キャレラとホースとが、若者の後を追って聞き込みをつづけるのだが、ホースは大きなミスを犯してしまうのだった。それも、殺人事件などめったに起きない所轄にいたせいでもあった。
　アニイ・ブーン殺しのほうは、怪しい者が何人か現れるが、いずれも決め手に欠ける。
　そのうち、ブーン宛てにおかしな手紙が届いていたことが分かる。その手紙には何が書かれていたのか……。

　名探偵の推理というよりは、警察の地道な捜査によって犯人にたどり着く、というのが、一応は基本的な筋立てであるから（しかし、けっきょくは「ひらめき」に頼ることになるのだが）、無駄弾をどれだけ撃てるか、それも読み手をミスリードさせながら撃てるかが、本書でも読ませどころとなる。アニイとつながりある人々を一人ずつ当たっていき、たいてい怪しいところがあるのだが、それをまた一つずつ潰していく。
　87分署では、そこが巧みなのだろう。怪しさが、理由のある怪しさなのだ。
　おまけに、容疑者だけでなく同僚の刑事からも嫌われていたハヴィランドが、実にあっけなく死んでしまう。なかなかユニークなキャラクターだったのだが。

　新たなメンバーであるコットン・ホースは、まだ、どのようなキャラクターかを把握させてくれないが、どうやら女性には魅力的な男のようである。
　そして、バート・クリングとクレアとの恋愛は順調に進んでいる。
　本書での季節は夏前であり、ちょうどいい気候なのかもしれない。 　 [520]

[2017/3/1記]