11月15日付の読売新聞の夕刊に、

　勤務中に風俗店利用
　国交省キャリア処分

　という見出しがあった。
　興味津々で記事を読んだ。
　事実関係をまとめると、以下の通りである。

　国土交通省航空局のキャリア男性職員（27）は7月1日午後3時過ぎ、上司の指示で地図を購入するため外出した際、デリヘル（派遣型風俗店）に電話し、JR鶯谷駅近くのラブホテルに女性を呼んだ。その後、地図を買って午後6時半ころに職場に戻った。
　職員は職務専念義務違反で減給6ヵ月（10分の2）の懲戒処分となった。

　なんとも馬鹿馬鹿しいといおうか、愉快といおうか。ともあれ、醜聞愚行には違いあるまい。
　しかし、疑問がある。
　勤務時間中にラブホテルに行き、デリヘル嬢を呼んだのは7月1日である。処分は11月のなかばである。この時間差はどういうことだろうか。
　以下、推理してみた。

１　デリヘル嬢の脅迫
　ラブホテルで、職員がシャワーを使っているあいだに、女はそっと背広をさぐり、名刺を一枚、抜いておいた。
　あとで、ヒモの男に見せたところ、
「ほう、国土交通省の役人か。仕事をサボってフーゾク遊びをしていたわけだな。役人は世間体があるから、バラすぞとおどせば、10万くらいは出すだろう」
　と、金を巻き上げる計画を練った。
　職場に電話して、口止め料を要求した。
　職員は真っ青になった。さぞ悩んだことであろう。
　いったんおどしに屈すると、骨までしゃぶられる結果になるのは目に見えている。
　そこで、職員は上司に打ち明けた。
　結果として懲戒処分にはなったが、これで正式に警察に相談することもできるので、脅迫はやんだ。

２　クレジットカードの悪用
　職員がシャワーを浴びているすきに、デリヘル嬢は財布からクレジットカードを抜き取り、すばやくデータを盗んだ。
　磁気データを読み取る小型の機械があるという。その後は、そ知らぬ顔でカードを財布に戻しておく。
　1ヵ月ほどして、職員は身に覚えのない高額支払いの明細を見て、びっくり仰天した。つらつら考えると、ホテルにデリヘル嬢を呼んだときが怪しい。
　カード会社に盗まれたとおぼしき時と場所を告げる。
　そんな騒ぎをしているうち、とうとう上司にばれてしまった。

３　殺人事件がおきた
　デリヘル嬢が殺害された。
　警察は客のなかに犯人がいる可能性が高いと見て、電話の通話記録を調べる。すると、職員の携帯電話の番号が判明した。
　事情聴取のため刑事が国土交通省航空局に出向き、当然、職場の話題になる。
　上司に問い詰められ、職員は白状してしまった。

４　口がすべった
　職員は酒に酔って、
「昼間は安いから、遊ぶのは平日の昼間に限るぞ」
　などと、同僚にうっかり口をすべらしてしまった。
　この噂が広まり、ついに上司の耳にまで達した。
　上司に呼ばれて問責され、職員は勤務時間中の風俗店利用を認めた。

５　誰かが目撃
　職員が鶯谷のラブホテルにはいるところを誰かが目撃していた。国交省出入りの業者かもしれない。
　この情報をたまたま週刊誌の記者が嗅ぎつけた。
「勤務時間中にキャリアが風俗店利用」
　は、週刊誌のかっこうの目玉である。
　取材が始まったのを知ると、国土交通省の幹部は週刊誌にすっぱ抜かれる事態に先手を打ち、職員を懲戒処分にした。

６　領収書の不正
　27歳のキャリア職員がわざわざ地図1冊を買いに行くはずはない。きっと、専門的な書籍や機材など、かなりの高額商品を買いに出かけたのであろう。
　職員は領収書の数字を改竄し、デリヘル代やラブホテル代などを上乗せして経理に請求した。
　あとで、領収書に誤魔化しがあるのが判明した。
　経理に追及され、職員は自分の不正を認めた。
　かくして、勤務時間中に風俗店を利用していたこともばれた。

７　領収書を提出
　職員はデリヘル嬢にきちんと領収書をもらっていた。
　その領収書はきっと、
「グリーン企画株式会社」
「有限会社　エコ開発」
　などであろう。
　社名からは風俗店とはわからない。
　風俗店には「クレジットカード使用可」、「領収書発行」などをウリにしているところもあるようだ。社用族や接待利用が少なくないことをうかがわせる。
　職員はデリヘル嬢にもらった領収書を経理に提出し、堂々と遊興費を引き出していた。
　後日、経理に呼ばれ、
「この会社はなんだ」
　と、追及された。
　観念した職員はデリヘル利用を認めた。

　以上、７つの可能性を推理してみたが、きっとどれかが該当するに違いない。
　いや、事実は小説よりも奇なりという。
　もしかしたら、筆者の想像を絶するような事実があるかもしれない。
　う〜ん、知りたい、知りたい。
　誰か、真相を教えてくれないだろうか。
　もし真相を知っている人がいたら、匿名で当サイトにメールしてください。ご本人からでもかまいません。

　さて、その後、職員が依願退職したかどうかは明らかではないが、もし職場にとどまっているとしたら、つらい日々であろう。
　こういうとき、男同士はけっこう「武士の情け」や「相身互」の感情がある。
　筆者が同僚であれば、「馬鹿だな」と苦笑し、「運が悪かったな」と同情はしても、けっして軽蔑や嫌悪の感情は持たない。
　むしろ、ポンと肩をたたき、
「おい、気を取り直せや。気分転換に一杯やろうぜ」
　と、居酒屋に誘う。
　しかし、職場の女性職員の見方は冷ややかである。
　彼女たちは、
「不潔ね。最低ね。国交省の恥だわ。あんな男、ゴキブリ以下よ。そばに来るだけでゾッとするわ」
　などと、軽蔑と嫌悪をむき出しにするであろう。
　仕事でも無視されるかもしれない。
　しかも、この悪評は国交省にいるかぎり退職時までついてまわる。針の筵とはまさにこのことであろう。
　ああ、さぞつらいであろうな。


　閑話休題
　以前、ラブホテル街として有名な都内某所の近くを歩いているとき、背広にネクタイ姿で大きな黒カバンをさげた、いかにも営業マンらしき若い男がひとりでラブホテルにはいっていくのを見かけた。
　ちょっと奇異な感じがした。
　ラブホテルへの営業かなと思った。つまり、寝具や備品の売り込み、あるいは改築の相談などである。
　いま思うと、あの男性は営業で外回りの時間を利用して、デリヘル嬢を呼んでいたに違いない。
　営業マンがパチンコで時間をつぶすのは昔からよくある光景で、会社もある程度は大目に見ているであろう。しかし、風俗店を利用していたのがばれると、いくら民間企業といっても、お目こぼしとはいかないであろう。
　ところで、筆者は自由業である。昼間からどこで遊ぼうと、まったくの自由である。
　たとえ平日の昼間、風俗店で遊んでいたと公言しても、職務専念義務違反で処分されることはない。べつに自慢にはならないのだが……。