たまたま神田神保町で人に会う予定があったので、約束の時間よりかなり早めに出かけ、古本屋街を歩いた。
　古本屋街を歩くのは久ぶりである。
　近年、古本を買うのはもっぱらネットになった。本がきまっている場合、ネットで購入したほうが送料を含めても安いし、確実である。
　そのため、いつのまにか神保町の古本屋街からは足が遠ざかってしまった。

　さて、歩いていて、一軒の古書店の店先に段ボールが置いてあり、英語のペーパーバックが詰まっているのが目にとまった。
　そばに、
「3冊で500円」
　と書かれている。
　これこそ古本屋めぐりの楽しみといえよう。

　地べたにしゃがみこみ、丹念に中身を点検していく。その結果、
　The Slanguage of Sex（刊行はイギリスの出版社）
という本を見つけた。性の俗語辞典といおうか。
　もちろん購入した。他の2冊と合せて500円なり。

　同書をぱらぱらとながめていると、four letter words　という項目が目にとまった。いわゆる四文字語である。
　four letter wordsの例として、arse、 shit、 fuck 、quim 、cunt、cock、twat、 piss、 fart　があげられていた。
　では、それぞれを同書で見ていこう。
　なんとなく子供のころ、国語辞典で性交や自慰、精子などをたしかめていたときの気分になる。
　なお、日本語訳は筆者である。

　arse　けつ、尻。イギリスではいまだに下品な表現とされており、公式な場で口にするのははばかられる。アメリカ英語ではassという。

　shit　クソをする。

　fuck　性交する。語源はラテン語のfutuere、あるいはドイツ語のfickenと考えられているが、英語として用いられたのは16世紀にさかのぼる。数十年前まで、人前で口にするのはタブーであり、印刷することもできなかった。ただし、現在アメリカでは男も女も普通の会話のなかで使用している。

　quim　女性器のこと。女性器を示す英語のなかではもっとも古いもののひとつである。17世紀ころまでは人前で口にすることはできなかった。現代ではイギリスで用いられることが多い。

　cunt　女性器のこと。15世紀までは猥褻語と考えられ、印刷はできなかった。

　cock　陰茎のこと。イギリスとアメリカでもっとも一般的に用いられる言葉。18世紀初頭にはすでに俗語として使用されていたことが確認できる。

　twat　女性器のこと。17世紀に使用され始め、いまもイギリスとアメリカで用いられている。

　piss　小便する。

　fart　屁をこく、屁をひる。
　
　ということなのだが、わが国の代表的な四文字語は印刷物の場合、いまだに、
　オ○ンコ、お○んこ
　という表記をしている。
　べつに法律や条例で規制されているわけではない。マスコミの側の自主規制である。差別語の自主規制と同じといってよい。
　週刊誌やスポーツ新聞ならともかく、官能小説まで○を使用しているのには少々驚くといおうか、興ざめといおうか。

　官能小説の場合、いわゆる言葉責めがある。
　男が女の局部を愛撫しながら、こう責める。
「ここ、なんというの。言ってごらん、さあ、口に出して」
「恥ずかしい、言えない……」
「はっきり言って、さあ」
「お、お○んこ……」

　最高潮の場面ではないか。
　それなのに、○を使用しなければならない。
　う〜ん、筆者としてはとうてい納得できない。
　ここは○なしの表記にして、女の羞恥と快感の混濁を煽情的に描くべきではないのか。
　出版社に検討してもらいたいところである。