外出先で、事故で電車が止まり、待ち時間がかなりあった。のども渇いた。
　ホームで缶コーヒーを飲むという手もあるが、駅は禁煙で煙草が吸えない。たまたま駅前にマクドナルドがあったので、利用することにした。
　お盆に敷く紙に、「Donald Check ! ドナル度チェック！」なるものが印刷されていた。いわゆる、自己診断テストである。なかなか面白いので、捨てずに持って帰った。
　以下に引用する。

笑顔が好き
体を動かすのが好き
オシャレが好き
音楽が好き
友達がたくさんいる
お出かけ大好き
目立つのが好き

　そして、「ドナル度診断結果　さあ、キミは何ドナルド？」は、該当するのが、

７個だと　→　もろドナルド
５個だと　→　かるくドナルド
３個だと　→　ちょいドナルド　

　だそうだ。

　他愛ないといえばそれまでなのだが、筆者はかつてコピーライターもどきのことをやっていた経験があるだけに、なんとなく背景がわかった。似たような自己診断テストを作ったこともある。
「Donald Check ! ドナル度チェック！」は広告代理店が製作したのであろう。項目や表現はコピーライターが考えたはずだが、けっして思いつきのでっち上げではあるまい。それなりに若者の好感度調査や、行動調査、趣味調査などのデータにもとづいているはずである。それはともかく――。
　筆者は質問項目を熟読玩味しながら、しみじみ思った。
　もし７個とも該当する人がいたら、男女ともに同性のあいだでは人気があり、異性にももてる人であろう。きっと初対面から好感の持てる、さわやかな人物に違いない。たとえば、会社の採用試験の面接では「◎」をもらえる若者であろう。
　裏返せば、いまの若者が自分はこうありたいと願う理想像かもしれない。
「待てよ……、あッ」
　筆者は質問項目を見つめながら、恐ろしい事実に気付いたのだ。
　７個とも該当するような「もろドナルド」は、おそらく小説を読まない人である。まして、時代小説など見向きもすまい。
　好感の持てる人には違いないが、小説を読まない人なのだ！

　小説を読まないからといって、けっして知的レベルが低いわけではない。高学歴で、仕事でも有能な人かもしれない。人間的にも、信頼できる人であろう。
　だが、小説は読まないだろうなぁ。
「もろドナルド」ともなれば、人生には小説よりもっと楽しいことがたくさんあるのだ。各種のスポーツ、音楽活動、友人や異性との交際、髪型や衣装を含むファッション、車、海外旅行などなど。
　いまの若者は無意識のうちに「もろドナルド」的な生き方を目指しているのではあるまいか。
　本が売れないはずである。
　いわんや筆者の時代小説をや、であろう。
　ちなみに、筆者も自己診断してみたが、該当する項目はほとんどなく、「ちょいドナルド」にもなれなかった。
　あ〜あ。
　若いころから小説を読んできたはずである。
　人からも好感を持たれないはずである。
　この年になれば、もう変わりようもあるまい。