第五章　ガンも身のうち４

　ガンは局所病でありながら、実は全身病であるというミステリーを、術後も日々語りかけてきます。
　手術痕はしばしば痛みますが、それが単なる手術創部の痛みなのか、もっと奥のどこかに再発・転移が生じて痛んでいるのか、本人には不分明です。いちいち細かく調べてもらうと、もうそれだけでメンタルにもフィジカル（肉体的）にもダウンしそうなので、このところの寒さで手術痕が痛んでいるのだろうということに決めています。この時期に、体内でガンがシュプレヒコールをあげているのを体感できるなら、そう長くはありません。
　こんな自分の悩みや判断も「おかしいかも？」と自問自答しだすと「これも脳転移のせいかもしれない」とまで疑わなければいけなくなります。大腸ガンには、まれに脳転移も発生します。
　もう「ままよ！、なるようになれ」と極楽とんぼにすることに決めています。
　このように、いくら医学的・医療的言説が「ガンは治るようになった」とアピールしてくれても、患者にとっては、手術はやむなく受けるもの、抗ガン剤や放射線は肉を切らせて骨を切る危険な起死回生の手にすぎません。多くの再発・転移がそろそろターミナルケアに移ろうかというシグナルに過ぎません。
　かくして、ガンは、わが身にとって怖れつつ共存を図るしかないミステリーです。いくらわが身の一部といえども、これをナルシストのように愛することのできるほど可愛い存在ではありません。
　だからといってわが身の一部をやみくもに撲滅しようとするのは若干無理筋です。
　愛することもできないところで、憎むこともそう適切なことではないだろうとなれば、いまは全身を徘徊している可能性のあるガン細胞たちが送ってきているかもしれないさまざまなメッセージに耳を傾けながら彼らとうまく付き合っていくしかないと考えています。
これらのメッセージが、わが深読みによる幻覚であることを祈りつつ。


　　　　　　　　　　　[この項おわり]