あとがき　

　年末、年始をかけて、この一年のわがガン体験を書き下ろしてみました。
　今までほとんど平板な人生でしたが、今回のガン体験はわが人生に大きな衝撃を与えてくれました。めりはりに乏しかった人生が、コキンコキンと音を立てながら過ぎていった一年でした。
　もう、ガン体験なしの自分の人生ということは考えることはできません。
　ガン自体は、経験前も経験後も、グロテスクで、不可解で、決して気持ちの良い存在ではありませんし、もう一度手術検体を見たり、写真を見たいとは思いませんが、ガンがもたらしたわが人生の変化は何にもたとえがたく大きいので、一瞬たりとも忘れられません。手術痕の痛みは、日々担ガン者としての自分を意識させてくれます。
　未だ退院して半年経つか経たないかの時点で書き始め、ガン体験を言葉にすることの困難さを何度も感じましたが、立ち止まり、立ち止まりしながら最終章まで何とか書いてしまいました。
　まだまだガンと対話して、分かり合うべきことはあるのでしょうが、やはりこの程度の浅い関わりで済めばいいなという気持ちは強くあります。ということで、続編は未定ということになります。

　　　　　平成一八年　雪の消えた春
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　札幌にて　　竹中郁夫