自分でも露骨な表題だと思うが、片仮名で「アナルセックス」にするよりは幾分か表現が穏当になるのではないかと考えたしだい。
　前回（吠239　The Sensuous Woman）の続きである。

『The Sensuous Woman』にAnal Sexの項があり、読んでいるうちに紹介したくなった。むずむずしてきたといおうか。
　けっしてワイセツが目的ではない。
　歴史的な観点からである。

　というのは、現在のわが国では、女性雑誌のセックス特集、あるいは女性向けのセックス本にアナルセックスが登場してもなんら不思議でない。
　もちろん、女性がみなアナルセックスをしているわけではない。
　しかし、しないまでも、そういう性行為があることはみな知っている。
　その意味では、アナルセックスは現在ではけっして「忌むべき行為」でも、「背徳」でも、「変態」でもない。
　あくまで多数ある性技のなかのひとつにすぎない。するかしないかは、本人と相手しだいである。
　要するに、ふたりの好みの問題にすぎない。

　ところが、『The Sensuous Woman』が刊行された1969年（昭和44年）ころ、アメリカでもアナルセックスは禁忌だった。おぞましい、鬼畜の行為と考えられていたのである。
　まさに隔世の感がある。
　当時のアメリカ社会の性モラルを、同書から読み取っていこう。翻訳は筆者である。
　なお、文中の「私」は著者の「J」のこと。


　アナルセックスについて言及すると、私がセックスに関してあまりに歯止めがないと思うかもしれませんが、これはあくまで選択肢のひとつで、好みの問題です。
　ですから、アナルセックスをこばんでも、誰もあなたを時代遅れとはいいません。この行為を避けたほうがよい理由もあります。
　いっぽうで、アナルセックスを楽しんだ方がよい理由もあります。
　私が初めてアナルセックスについて知ったとき、おぞましく、不潔に感じ、気分が悪くなったものです。そんな変態行為をしていたら神の怒りを買い、いずれ難病になるであろう。少なくともひどい痔になるであろうと思ったほどです。
　ところが、私の素敵な知り合いのなかにはしばしばこの行為を楽しんでいるカップルがいますし、しかも彼らは健康そのものです。もちろん、私も楽しんでいます。
　　（中略　ここにアナルセックスのやり方の解説がある）
・アナルセックスの短所
　１　ひとえに、あなたの心理にかかっています。この行為は下品で不潔という考えが抜け切れないなら、とうてい楽しむことはできません。
　２　ふたりとも局部を清潔にしていないと、不快になるだけです。
　３　肛門からペニスを抜いたあと、きれいに洗わないままで膣に挿入すると炎症などを引き起こします。
　４　肛門周辺の筋肉をどうしても緩和できない女性もいます。そんな状態で挿入しては苦痛を覚えるだけなので、時間をかけて馴らしていく必要があります。
　・アナルセックスの長所
　１　性行為を多彩にします。
　２　妊娠する心配がありません。ピルを飲み忘れたときでもできます。
　３　生理が長引いて膣に挿入されるのはいやなとき、代用となります。
　４　これがもっとも重要な点ですが、新しい世界の扉をひらき、あなたがこれまで知らなかった悦びをもたらしてくれます。

　と、まあ、基本は啓蒙的といえよう。
　1969年当時のアメリカはこんな風だった。
　そのころのわが国のセックス観では、肛門性交は男色（男の同性愛）に限定されており、男が女とアナルセックスをするなど「変態」と思われていた。

　隔世の感がある。