その６　某月某日

　曇り。なぜか早起き。６時半頃、鳩の様子を見に行くと、大きな羽ばたきをする。
　鳩の家の新聞紙を替える。覆いのボックスを持ち上げても止まり木にとまったままで、飛び出てこない。実に、おとなしくしている。水と餌をセットして一度、覆いをする。
　新聞で天気予報をチェックすると、今日、雨は降らないらしい。
「放してみよう」
　ベランダ側のドアを全開にして、覆いを完全に取ってやる。
　鳩はなかなか動かない。
　ようやく「飛んだ」と思ったら、ベランダのてすりに止まった。それから、ずっと首を振っている。
　次はどこへ飛ぼうかな、と距離を測っている感じだ。
　こうして改めて全身を見ると、この鳩はやはり小さい。が、後ろ姿はなかなか凛々しくもある。首も長く、すらりとしている。
　家人が「だめかな。戻そうか」と言ったとたん、鳩は隣の大家さんの庭の木に飛び移った。７メートルくらいは飛んだか。
　鳩はしばらく緑の葉を揺らしていたが、やがて見えなくなった。
　デデッポーポーと聞こえた気がしたので、そちらを見ると、向かいのあの家の屋根の上、アンテナのてっぺんに大人のキジバトが止まっていた。
　鳩の家を洗って、元のビデオボックスに戻し、書斎の掃除をする。
　餌の「鳩の食卓」は、まだ半分以上残っている。とりあえず本棚の上に置いておくことにする。もう、使うこともないだろうか……。

【おわり】